こんにちは。ぴあネクストスコープ株式会社 データマーケティング推進部 部長の竹本です。
マネジメント業務の他、エンタメ総合情報サービス「ぴあアプリ・Web」の開発・運用責任者を務めています。
今回は、2022年3月末にサイトを終了した映画コミュニティ「ぴあ映画生活」と、「ぴあアプリ・Web」への移行について、主にサービス運用と開発ディレクター視点でお話しします。
Webサイトやサービスの立ち上げノウハウについては、多くのWeb担当者向けメディアで語られていますが、サイトやサービスの終了ノウハウについて語られることは少ないようです。
そこで、サービス終了に至った経緯、コミュニティの利用者に向けて説明したこと、実施したこと、後継サービスの「ぴあアプリ・Web」への移行促進について、私たちの知見を共有することで、今後、図らずもWebサービスを終了せざる得なかった方々のお役に立てればと思います。
「ぴあ映画生活」とは
ぴあ映画生活は、1999年に開設された日本で最初の映画専門クチコミサイト「映画生活」と、2006年より雑誌『ぴあ』の編集部が運営していた映画情報サイト「シネマぴあ」、2つのサービスを2009年に統合することにより生まれました。
当時の月間閲覧数は「映画生活」が500万~600万PV、「シネマぴあ」が150万~170万PV。
統合により、映画館上映スケジュールから作品クチコミまでを網羅する、総合映画情報・クチコミサイトが生まれました。
「映画生活」は老舗のクチコミサイトだけに、他の映画情報サイトにはない「詳しく」「批評性の高い」クチコミ情報が特徴で、熱い映画ファンに支持いただいていました。
ただ、2009年から10年が過ぎ、インターネット利用者の閲覧環境が大きく変化したことが、時間の経過と共にシステム面で大きな影響を受けることになりました。
一つはPCからモバイルへの閲覧環境のシフト、もう一つはスマートフォンアプリの台頭です。
「ぴあ映画生活」のサービス終了決断
2020年の11月時点で「ぴあ映画生活」は3つの課題を抱えていました。
1つ目は、サイトのシステム課題。
プログラム言語にPHPを利用しており、古いフレームワークを用いていたため、PHPの最新バージョンへの更新が難しい状態であったこと。
この抜本的な解決(OS、ミドルウェア、フレームワーク、PHP等を一新)を行うには、数千万円の改修費用が必要でした。
2つ目は、サービスの重複。
ぴあ株式会社では2019年に、総合エンタメ情報スマートフォンアプリ「ぴあ」を立ち上げており、 こちらにもクチコミ機能があって、良質なコミュニティが形成されつつありました。
3つ目は、最新のデータマーケティングへの対応。
こちらは1つ目の課題と重複しますが、PC → ガラケー → スマートフォンと、閲覧環境の変化に応じて複雑に増築を重ねた「ぴあ映画生活」よりも、最新のシステムで運用している「ぴあ」に注力する方が容易だったのです。
長年、利用者に愛していただいた「ぴあ映画生活」の存続も選択肢として数か月間検討をしました。
しかし、以上の3つの理由により、数千万円の費用をかけて改修を行うよりも、「ぴあアプリ」への移行を促すことを決断しました。
サービス終了にあたり一番重視したこと
利用者へのサービス終了の告知から実際の終了まで、約3か月間のスケジュールを引きました。
その際、重要視したのは、書き込みいただいたクチコミの「返却」です。
クチコミ数は約47万件にのぼります。
前身の「映画生活」は1999年開設。これまで見た映画の記録(ライフログ)として、長年利用いただいている利用者が数多くいらっしゃいました。
これらは人生の一部ともいえるものです。思いのこもった長文の感想・批評が多く、利用者ご自身の記録が毀損しないことを第一に考えました。
そこで、過去、利用者ご自身が書き込んだクチコミをダウンロードできる機能を開発。サービス終了の告知と共に約3か月のダウンロード可能期間を設けました。
2022年02月01日:新規会員登録停止
2022年03月31日:サービスとクチコミダウンロード機能提供終了
メールマガジンの移行・継続
「ぴあ映画生活」の利用者(登録会員)約30万人には、毎週メールマガジンを配信していました。
こちらは試写会への招待やプレゼントの充実を図っており、非常に高い開封率でした。
一方「ぴあアプリ」には映画ジャンル独自のメールマガジンがなかったため、「ぴあ映画生活」のメールマガジンを改装し、ほぼ同じ内容の「ぴあ映画」メールマガジンとして継続することにしました。
「ぴあ映画生活」のメールマガジン最終号で、リニューアルとメルマガ解約(オプトアウト)の方法を説明。
幸いなことに、多くの利用者に購読を継続いただくことになりました。
「ぴあ映画生活」から「ぴあ映画」への誘導
「ぴあ映画生活」には映画館の上映スケジュールが掲載されており、Googleの検索を通じて多くの利用者にアクセスいただいていました。
この受け皿として、まず「ぴあアプリ」のWebサイトから「ぴあ映画」を独立させて機能を強化しました。
もともと「ぴあアプリ」のWebサイトは、アプリを補完するSNSシェア機能として開発したものですが、映画館情報・作品上映スケジュール等を加えて、「ぴあ映画生活」が終了する2022年3月末までにリリース。
「ぴあ映画生活」のサービス終了の翌日より、「ぴあ映画生活」の(旧)映画館情報ページから「ぴあ映画」の(新)映画館情報ページにリダイレクトを実施しました。
その他、Googleにインデックスされている「ぴあ映画生活」のページには、4月以降「ぴあ映画」の利用を促す告知文を掲載する等、「ぴあ映画生活」サイトのトラフィックをできるだけ「ぴあ映画」に活かせるような施策を打ちました。
残念ながら、あらゆるWebサービス・サイトには終了の可能性があります。
普段、運営側が気が付かないほど、サービスに愛着を感じている利用者も中にはいらっしゃいます。
サービス・サイトの終了にあたっては、下の2点を真摯に取り組むことが重要と考えます。
- サービス終了のていねいな事前説明(3か月~半年前)
- サービス移行先の確保・誘導(自社で確保できない場合は他社サービス紹介・誘導)
今後もサービス運用のヒントとなる記事を随時更新しています。
総合エンタメ情報サービス「ぴあ」もよろしくお願いします。
竹本 朝直
1998年、インターネットメディアの草創期よりWebサービスの開発・運用に従事。現在、ぴあ朝日ネクストスコープ社のシステム統括と、総合エンタメ情報サービス「ぴあ」の開発責任者を務める。編集者経験を活かしたCMS(コンテンツマネジメントシステム)設計が得意。
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